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なぜ長々と研究を続けているのか

2000-07
updated on 2006-02-08

私が大学院で研究をはじめたのは 1981年.研究を職業として口を糊するようになったのは 1986年.もうずいぶんたちました. 最初は一種の使命感から選んだ道ですが, これだけの長きにわたって日々研究を続けてきたモチベーションには, いろいろな要素があるような気がします. 曖昧模糊とした部分もありますが,あえて整理してみました.

1.知的好奇心

なにごとかを知りたい,とにかく知りたい,でも世界でだれも答えを 知っている人がいないという場合には,自分で答えを探す=研究する しかありません. また,新しいことを見つけること自体が楽しい,ということもあります. 「そうだったのか!」と膝を叩く楽しさは大きな動機付けになってます.

2.作業のおもしろさ

研究の過程での日々の作業自体のおもしろさもモチベーションになります. 山奥でテント張って調査するのが楽しくてしょうがない, 数値シミュレーションのためのプログラムのデバッグに自虐的な喜びをおぼえる, 測定装置の工作にのめり込む, とにかく測るのが好きだ, など人によっていろいろあるのではないでしょうか. 私の場合,林のなかで黙々と測定をするのはけっこう好きですし,プログラムを 書いてシミュレーション計算をしたりデータ解析をしたりという作業も大好きです.

3.使命感

世の中の役にたちたい,社会がかかえる問題の解決に貢献したい, といった利他的な動機です.利他的とはいえ,人の役に立つことに みずから充実感を感じられるなら,日々の活力源となります. 私が最初に研究を志したときには,特にこの動機の貢献度が高かったような気がします.

4.名誉欲

人間はだれでも他人に評価されたいものです. 研究者の場合も同じく,研究成果や自分の研究者としての能力を認めてもらいたくて 研究に精を出す. 私もこういう気持ちがあります. この研究はぜったいおもしろい,学会でしゃべったらウケるに違いない,などと思ったり.

あまりに俗な動機であるからといって,これを否定してしまったら, たとえばノーベル賞の存在意義がなくなってしまいます. こういう賞が存在しているということは,研究者が名誉を求めることを 世間も認めているからでしょう.

5.労働倫理

研究を職業として給料をもらっている以上,研究をすることは 労働契約上の義務であると考えて研究に従事するってこともあります. どうにも気持ちがのらない時でも,仕事をほっぽらかして遊びに行ってしまう わけにはいきません. また,なんらかの組織に属している以上,「仕事だからしょうがない」と 思ってやるしかないこともままあります.

大学院生でも,研究こそ大学院生の本分だからという理由で 研究にいそしむならこの範疇ですね.

6.惰性

今までやってきたから今日もやる,明日もきっとやるだろう... はて,これも動機に入れていいのだろうか.




これらの要素が渾然一体となったものに背中を押されて,私は日々研究を続けているようです. 純粋科学の研究者は好奇心のみ,応用科学の研究者は使命感のみで 研究をしているわけではないでしょう. また,そうであるべきだとか,そういう研究者がエライというような 考え方はナイーブにすぎます.

ところで,研究者本人がどのような動機づけで研究をしているかと, その成果が社会的にどのように受け止められるかとは別物です. 本人は純粋に自分が知りたくて調べていることが,社会的に非常に 必要とされているものであったり,名誉欲にかられての研究が学問を 大きく発展させたりということも多いでしょう. また,好奇心のみに基づく研究や,使命感に燃えての研究が, 社会的には迷惑になることもあるでしょう.

最後に,私の場合,上に挙げた要素の相対貢献度は, 知的好奇心25%,作業のおもしろさ50%,使命感10%, 名誉欲10%,惰性5%といったところでしょうか(2000年7月現在).

(追記 2001-07-11) このごろ,知的好奇心の貢献度が強まった気がします. 知的好奇心40%,作業のおもしろさ30%,使命感15%,名誉欲10%,惰性5%ぐらいかな.

(さらに追記 2003-10-18) さて,2年ぶりに考えてみて,どうだろう. 前回とあまり変わりはないようです.

(なおも追記 2006-02-08) 2年以上たったけど,あいかわらず大きな変化なし.


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