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分布の移動と種多様性の変化

次に,環境の変化が種の多様性に与える影響を見てみます. 上のシミュレーションでは,3種類だけの木を考えましたが, 涼しいのが好きなグループ(緑),暖かいのが好きなグループ(青), 中間のグループ(赤)それぞれ5種類ずつ,全部で15種類の樹木が 生育しているとします. 15種類を均一にまぜてから,温度勾配がある条件で500年たったとき, グループ間でははっきりと分布域が分かれますが,グループ内では, 性質が同じ5種類が多少のばらつきをともないながら,ほぼ同数ずつ 生育しています(下図の上). それぞれの樹種に遺伝的なばらつきを与えてあります. その後,暖かくなって分布域がずれたとき,あらたに分布が拡大した 場所に注目すると,少数の種が優占していることが分かります(下図の下).

種の相対優占度

分布を拡大するときには,たまたま最初に侵入した少数個体の中で 相対的に多い種類が,その後のさらなる進出のときの種子のおもな 供給源になります.そのために,移動にともなって種の多様性は減少 していきます.


下の図では,種の多様性をあわらす指標としてシャノン指数というものを 計算して示しています.温暖化する前は,2つのグループの分布境界の 付近で多様性が高くなっています.これは,両方のグループの種がまざり あって生育しているためです.その後,温暖化にともなって分布が移動して いく際には,移動した先ほど多様性が減少していくことがよく分かります.

多様性指数の変化


氷期・間氷期のサイクルや,最終氷期中のダンスガード・オシュガーサイクルのように 地球規模で温度環境が変化した時,高緯度地域ほど温度の変化は大きかったと 考えられています. とすると,高緯度地方の植物ほど,温度変化に追随するには大きな距離を移動しなけれ ばならなかったはずです.

高緯度地方ほど植物の種の多様性が低いという現在の一般的傾向があります. このモデルで示したような多様性の消失が高緯度地方ほど顕著であったことが, 現在の多様性のパターンの形成に多少ともかかわっていたのではないか, という仮説が考えられます.


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