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生態学会49回大会 企画シンポジウム「資源獲得戦略としての樹木の形づくり」 講演要旨

「樹形のパイプモデル」で「樹形」を理解してもいいのだろうか? − スギとヒノキの事例

城田徹央・作田耕太郎 (九州大学)


枝葉末節は木質部によって3次元的に配置され、木質部を通じて養分や水分を供給されている。枝葉末節の研究が進行する中で、樹木の骨格でありライフラインである木質部の発達に関する研究は少ない。私たちの目的は、枝葉末節と木質部のバランスに着目したShinozakiら(1964)のパイプモデルを一つの基準として、スギ、ヒノキの木質部の発達と形作りを考察することである。パイプモデルによる「樹形」イメージは、特定の葉が特定の通導組織に直結した「単位パイプ系」、および葉が脱落することによって幹内に埋没された「不要パイプ」の寄せ集めとして描かれている。この「樹形のパイプモデル」における量的関係や通水経路を、実際のスギやヒノキのそれらと比較した。

通常、パイプモデルを検証する場合、葉量とそれを支える断面積の関係の線形性が調べられる。しかしスギやヒノキのように「葉むしり」が困難な樹種では葉量計測の精度が低く、この方法は適当でない。そこで私たちはパイプモデルのもうひとつの必要条件「枝分かれの前後で木質部の断面積の総和が変化しない」という面積保存則、いわゆるダ・ヴィンチ則に注目した。この方法を用いる利点は、1.葉を計測する必要がないこと、2.幹内に埋没した節のサイズ計測に基づいて樹形のパイプモデルも同時に検討できること、3.数量の等価性を検定するのでより厳密な評価が可能という3つである。

この新しい方法によって、いくつかのデータを解析した結果、開放下で生育した個体の枝や幹、林分状態で生育した個体の樹冠内部および樹冠下部の幹など、ほとんどのケースでダ・ヴィンチ則が成立した。すなわちパイプモデルを支持する結果が得られた。ダ・ヴィンチ則が成立する場合、任意の高さの幹断面積は、その断面よりも上に着生する枝基部断面積の積算値と等しい。すなわち幹の形は枝の分布構造と端的な対応関係にある。

またこの方法によってパイプモデルが成立しない例も検出された。樹冠下部の年輪欠損枝や過密林分で生育する個体の幹では、枝の付け根や地際など先端から離れた部位の肥大成長量が、ダ・ヴィンチ則から予測される値よりも小さかった。これらの事例は、パイプモデルが最初からプログラムされたものではないこと、生産が抑制される環境では成立しないことを示唆している。すなわちパイプモデルは何らかの物質分配法則にしたがって実現されたある種の理想的な平衡状態であると考えられる。