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生態学会49回大会 企画シンポジウム「資源獲得戦略としての樹木の形づくり」 講演要旨

木を見て森も見る − 幹・枝構造の成因と群落動態へのかかわり

隅田明洋 (北海道大学)


この発表の目的は,広葉樹群落内の樹木の幹・枝構造と群落スケールの構造とのかかわりに関する研究の紹介を通して,枝から群落までのスケールアップについて考えるひとつのヒントを示唆することにある。

まず,幹・枝構造の調査法と解析法を紹介する。可視レーザ測距儀付きセオドライトを使うことで,調査区のすべての高木の幹・枝の骨格構造を3次元的にとらえることができた。個々の枝(一次枝)の位置は,幹上の枝基部および枝先端の2点の3次元座標で表した。わざわざ個々の枝の3次元座標を調べたおかげで,枝ごとに隣接枝(最近接の枝)を選び出し,両者がどのように空間を「分け合って」いるかについて計算機上で解析することができた。

その結果,森林内に優占するクリ(Castanea crenata)の場合,隣接枝が異種の枝でかつその隣接枝までの距離が短いと,隣接枝方向の枝の広がりが狭くなる傾向があることがわかった。このことは,同じ樹冠内でも樹冠の「部分」の発達はローカルな要因で決まることを意味する。上の結果はまた,森林群落構造と個体群の生存との結びつきを考えるうえで重要である。なぜならクリのように「隣接する異種の枝間の勢力拡大競争」に弱い樹種があったとしても,森林内で同種どうしが群生することによって他の樹種と接する機会が少なければ「異種枝間の勢力拡大競争」の不利を避けられるからである。そして実際,クリの個体は調査林で集中分布する傾向があることが他の研究者らの調査によってわかっている。

最後に,クリの枝構造の成因について考察した。調査林ではまた,クリの開葉フェノロジーが他の樹種より遅いことも報告されている。このことがクリが異種の枝間の勢力拡大競争に弱い理由のひとつとなっている可能性がある。開葉フェノロジーの種間差は,長い年月を通して隣接個体間競争に影響をおよぼすかもしれない。以上の研究例では,1)個々の枝構造データを用いた個体群スケールの解析,2)林内の個体位置の水平分布様式,3)開葉フェノロジーと枝発達の関わり,の3つを考慮に入れたことが,枝スケールの構造調査結果を群落スケールの構造や動態に結びつける橋渡しとなっている。