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生態学会49回大会 企画シンポジウム「資源獲得戦略としての樹木の形づくり」 講演要旨

個体の中の個体群:シュート動態と幹の成長

鈴木牧 (京都大学)


近年、樹木成長の「機能的・構造的モデル」の開発が盛んに行われている。こ れらのモデルは、従来行われて来た樹冠構造の発達パターン解析に留まらず、 個体成長の機能的メカニズムの再現を目指している。しかし、それらのモデル を裏づける実証的データは圧倒的に不足している。樹木個体内部における光合 成産物の実際の流れ、資源をめぐる繁殖と成長の競合関係、個々の枝先と個体 全体の成長との対応などの問題はいぜん未解明である。これらの問題を論じる 足掛かりとして、このパートでは、当年生シュート成長と枝基部における肥大 成長の対応に関するデータを提示する。

繁殖段階にあるミズナラ孤立個体の当年生シュート動態を、4年にわたって追 跡調査した。大量繁殖年には当年生シュート数は前年の1.3倍に増えたが、翌 年以降は毎年ほぼ同数の当年生シュートが生産された。また、枝基部の年輪解 析により、大量繁殖年の肥大成長量は前年と翌年よりも大きいことが分かった。 すなわち、大量繁殖年には繁殖器官を支える当年生シュートも増産され、その 結果葉が増えて同化が促進され、肥大成長量も増えたが、翌年は貯蔵資源の枯 渇によって当年生シュート生産が落ちこみ、肥大成長量も伸び悩んだと考えら れる。以上のように、当年生シュートの生産量と肥大成長量は年間・個体全体 のスケールではよく対応していた。次に、同じ年の樹冠内の一次枝間における 葉量と肥大成長量の対応を調べた。

上と同じ個体の各一次枝上の全当年生シュート長を測定し、それをもとに一次 枝ごとの葉量と当年茎重量を計算した。一次枝ごとの肥大成長による重量増加 は、基部断面積と年輪幅から計算した。計算された葉量、当年茎重量、肥大成 長による重量増加は、いずれも各一次枝の基部断面積と高い正の相関を示した。 一方、一次枝の基部断面積と肥大成長量の回帰関係の残差は、主軸付近の一次 枝と樹冠下部の太い一次枝では正に、他の枝では負になる傾向があった。また 一次枝上の全葉重あたり全当年茎重量は、主軸付近の一次枝で大きく、他の枝 で小さい傾向があった。以上のように、一次枝間における葉量と肥大成長量の 対応は、厳密なものではなく、枝の部位や生育段階を反映して微妙に異なるこ とが示唆された。