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生態学会49回大会 企画シンポジウム「資源獲得戦略としての樹木の形づくり」 講演要旨

木の形づくりとその機能的意味 − 研究の流れと今後の展望

竹中明夫 (国立環境研)


木は空中に伸ばした枝に葉を展開して光を受け,地中に根をはりめぐらして水や栄養塩を吸収する.木の形は資源の獲得機能と密接に関係している.樹木の地上部のマクロな形がもつ資源獲得機能の研究では,個体の高さ,投影面積,葉面積の垂直分布などが注目されてきた.高さは隣接個体との光をめぐる競争において重要な意味を持つし,樹冠の投影面積はそのまま受光面の大きさとなる.樹木が限られたバイオマスを使って形づくりをするうえで,高さと広がりのバランスをどのようにとっているのかに注目した研究もある.

いっぽう,木の全体的な形を見るだけでなく,一歩近寄って分枝構造に注目しながら樹冠の発達のダイナミックな側面にせまる研究の流れがある.樹冠は年々あらたなシュートがつけ加わって拡大していく.Honda(1971)のモデルは,幾何学的なルールにもとづいていかにも木らしい分枝構造が作り出されることを示した.枝分かれ,枝の伸長,そして死亡のプロセスと光微環境との相互作用に注目した研究者は,隣接個体との相互作用まで含めて構造と光獲得機能との関係へと踏み込んでいる.さらに,樹冠に付け加えられる一本一本のシュートの構造と機能に注目した研究も多い.

分枝構造のトポロジーだけでなく,枝の肥大成長も含めて樹冠の発達を考える研究も盛んである.また,近年は,これまで独立に研究されてきた個葉の光合成特性,樹冠内の微環境,光合成産物の転流,水分輸送,力学的な支持機能などを統合して理解する試みも進められている.コンピュータ・シミュレーションがそのための強力な道具となっている.個葉の光合成に関しては多くの詳細な研究があるいっぽうで枝の肥大成長や物質の転流の制御メカニズムの研究はまだ先が遠いなど,各要素の研究の進展は一様ではない.しかし,樹木の複雑な構造と機能の研究は,明らかにされた諸プロセスの再統合によって完結する.本シンポジウムで紹介される多様な研究も,木の生活の本質的な理解にむけて収斂していくだろう.