生態学会49回大会 企画シンポジウム「資源獲得戦略としての樹木の形づくり」 講演要旨
植物の茎は水の通導と力学的支持という2つの重要な機能を担っている.これらの能力は,茎の解剖学的性質を反映している.通導能力,つまり通導性は,導管の太さと頻度によって決まる.とくに導管の太さは重要で通導度は導管の直径の4乗に比例することが知られている.また,支持能力は,茎の太さと硬さ(ヤング率)によって決まる.茎の硬さは,茎の体積に対する材の充填率に依存し,これは密度と深い関係がある.こうした茎の解剖学的特徴は,種によって非常に多様である.このことは同時に茎の能力も種によって多様であることを意味している.では,こうした多様な茎の性質は,個体の生産性,ひいては適応に貢献する形質なのであろうか?わたしたちは,「植物のシュート内における茎と葉への物質分配」を定量的に評価するためのモデルを開発した.今回の発表では,このモデルをもちいて,茎の多様な性質を植物の生産性によって評価することを試みた.
結果は次のようなものであった.(1)モデルから,茎の通導機能,支持機能のそれぞれについての最適な物質分配率を求めることができた.そして,(2)この両者を比較することにより通導性の極めて低い裸子植物だけが通導機能を規範としてシュート内の物質分配を行い,多くの被子植物は支持機能を規範としてシュート内の物質分配を行うことが予測された.(3)同時に,モデルは茎の密度,通導性という性質の違いが,生産速度に大きな影響を与えることを予測した.つまり,茎の高い通導性と低い密度は,高い葉への物質分配を可能にして個体に高い生産速度をもたらし,逆に茎の低い通導性と高い密度は,茎への高い分配を必要とすると同時に低い気孔開度しか実現できず,低い生産速度をもたらした.以上の結果とこれまでの知見を踏まえて,多様な茎の性質とそれによって決定される形態がどのような環境で選択されるべきなのか,について考察する.