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シミュレーションモデル作りの3つのご利益

2012-06-13

以下は、「生態系とシミュレーション」 楠田哲也・巌佐庸編、朝倉書店 (2002年)  (→ amazon) のうちのひとつの章「森林の木々の動態モデル」(pp 62-77) に書いた文章からの引用です。要約すると、シミュレーションモデルを作ることには 「作って納得」「いじって発見」「使って予測」の3つのご利益がある、という話です。


(前略)

ところで,モデルを作るときには,複雑な現実のなかから重要な部分を抽出して単純化する.モデルを作ることは,現実のシステムのなかで本質的な要素は何なのかを問いなおすことでもある.抽出した要素やプロセスをシステムのなかに位置づけ,統合していくことであらためて全体像が見えてくる.研究者にとって,いわば“作って納得”とでも呼ぶべき作業である.

また,作ったモデルを動かすことで,モデルを作るにあたって仮定したことの意味がはっきり見えてくる.そこに現れるパターンは,よく考えてみればモデルを動かすまでもなく予測できたはずのことも多い.しかし,「言われてみればそのとおり,なんで気がつかなかったのか」ということが世に多いのと同様.モデルも動かしてみて始めて気がつくことが多々ある.“いじって発見”とでも言えようか.

さらに,現実の問題に対応するときには,モデルからなんらかの具体的な予測を得ることが期待される.根拠のはっきりしない予測ではなく,依ってたつ仮定とそこから結論に至るまでのアルゴリズムを明らかにしたモデルによる予測は,その当否を科学的に論じることができる.この意味で,そのような予測は“科学的な予測”と呼べるだろう.

(後略)


どのようなシミュレーションモデルでも、上記の3つのご利益があるでしょうが、相対的なバランスは用途・場合によって異なります。 研究の中で作るモデルでは最初の2つの比重が高いでしょうし、実用的な用途のモデルでは3つめのご利益が重要です。いずれにせよ、 やみくもにモデルを作るのではなく、何のためのモデル作りかを意識しながら設計することが必要でしょう。

「計算すれば分かる」ところまで分かったか?」もあわせてご覧ください。


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