Updated on 7 September 1999
シンポジウム 「植物の構造と機能:進化とバイオメカニクス」で話をさせていただきます。
竹中明夫(国立環境研究所・生物圏環境部)
樹木の地上部の葉が茂っている部分を樹冠と呼ぶ。樹木が多くの光を受けるためには樹冠を広い空間に展開しなくてはならない。そのための足場として機能するのが枝である。樹木の場合,この足場は複雑な分枝構造を持つ。
成長とともに樹冠サイズが大きくなると、受けとれる光の量が増加するが、同時に足場もより長く、かつ太くなる必要がなる。樹冠面積は木の成長とともに2次元的に増加し、枝のバイオマスはほぼ3次元的に増加すると仮定して簡単な数理モデルを作ると、成長にともなう個体全体の物質収支の悪化を表現できる。このモデルを使って、樹木には到達可能な最大サイズが存在すること、個体サイズが最大になるよりも前の時点で純生産量が最大になること、光環境がよいほど到達可能サイズが大きくなることなどを示せる。
樹冠の構造は局所的な分枝プロセスの繰り返しにより形成される。分枝プロセスは樹種や環境条件によって変化し、それが樹冠全体の構造に反映される。そうした現象が個体の生活にとってどのような意味を持っているかを検討するには、上記のようなモデルでは不十分である。分枝構造を明示的に取り扱う3次元構造モデルを利用することで、枝の作成・維持のコストや光の獲得効率が樹冠構造のダイナミクスとどのように関係しているかといった、樹木の形態的性質の機能的な意義の解析が可能になる。