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日本生態学会第47回大会講演要旨

Updated on 8 December 1999


炭素収支モデルで説明する'あえて成長しない植物の生き方'

竹中明夫(国立環境研究所・生物圏環境部)

森林を構成する樹木には,林冠を構成する高木もあれば,高々数mの低木もある. 低木樹種をどんなによい条件で育てても決して高木にならない.このようなあえて 成長しない生き方の生態学的な意味を,物質収支にもとづく成長モデルを使って考えた。 基本的な仮定は.(1)光合成生産(Pg )および個体の維持コスト(C)は個体重 Mの指数関数で与えられる(Pg = qMa, C = kMb), (2)光合成生産と維持コストの差である純生産(Pnet)を使って植物は成長する, の2点である.

ふたつの指数関数の指数項aとbにa < bの関係があれば,成長にともなう 維持コストの増加は光合成生産の増加よりも急速であり,やがて純生産は ゼロに近づく.Pnet = 0となるサイズが到達可能な最大サイズである.a < b という条件はきわめてありそうな条件である.たとえば,Pg が受光面積に比例し, 受光面積は個体重の2/3乗に比例(= 相似形を保って成長)し,維持コストは個体重 に比例するならば a = 2/3, b = 1 となる.この場合,到達可能な最大サイズは生産性の パラメータqの3乗に比例する.また、Pnet が最大になるサイズも解析的に求められ, a = 2/3, b = 1の場合には到達可能最大サイズの約30%となる.

森林の林冠木のサイズがこのモデルでいう到達可能最大サイズに近いものであり, また林内では光不足のために林冠部に比べて生産性がかなり低下する(たとえば 1/10になる)ならば、林内に生育する植物が到達可能なサイズは林冠木のサイズ に比べて非常に小さくなる(たとえば生産性の3乗に比例して1/1000になる) ことが予想される.林内の条件下では林冠に達するサイズまで成長できないので あれば,この条件のもとで純生産が最大になるサイズで成長を止め,純生産を成長 ではなく繁殖などに使う生き方があり得る.こうした生き方に特化したのが低木だ という仮説を考えることができる.

環境の生産性に垂直方向の勾配がある場合についても,植物の高さを個体重の関数で 表して同様に考察できる.生産性の変化パターンによっては純生産が極大になるような 高さが複数個存在し得る.この結果から,森林の階層構造は純生産の極大値が複数 あることに対応したものだという仮説が考えられる.


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