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日本生態学会第50回大会講演要旨


「鬼の居ぬ間」メカニズムは森の木々の共存を促進するか?

竹中明夫(国立環境研究所)

空間をめぐり競争する固着性生物の群集では,繁殖の時間変動が多種の共存を促進することが理論的に示されている.優占種がたまたま繁殖子を作らないときに希少種が繁殖子を作れば,その期間に形成された空き地を希少種の子供が占有できるからである.この挽回の仕組みを「鬼の居ぬ間」メカニズムと呼ぼう.このメカニズムは森林でも働くだろうか.たしかに森林の構成種では繁殖に時間変動がある例は多い.しかし,種子の大部分は親木の近くに散布されるし,希少種は森林のすべてのギャップを埋めるほど多くの種子は作れない.また,林冠ギャップを埋めるのはギャップ形成後に散布された種子ではなくもともと林床に存在していた稚樹であることが多いなど,森林では上の仮説の前提とあわない部分がいくつもある.それでもこのメカニズムは有効に働き得るのかを,森林の個体ベースモデルを使って検討した.

その結果,1)種子散布が空間的に限られていても,ギャップに種子を供給できる潜在的親個体の数が減ることによって かえって「鬼の居ぬ間」が発生しやすくなり,多種の共存が促進されること,2)稚樹間での場所取り競争があるなら,稚樹レベルでこのメカニズムが働いて多種の共存を促進することなどが明らかとなった.


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