竹中明夫(国立環境研究所)
林床に生育しているホオノキの若齢個体では,主軸から分枝した一次側枝の伸長が 年とともに鈍って短枝化するとともに,一次側枝から分枝する二次側枝は発生当初 から短枝的で毎年わずかずつしか伸びない.よく伸びる長枝とあまり茎が伸びない 短枝とをあわせ持つという現象はおおくの樹種で観察される.その意義としては, 長枝だけを作るよりも,空間獲得のための長枝とその場での光獲得を優先する短枝とを 組み合わせることで,より少ない支持器官で効率よく光を受ける樹冠ができるという 仮説が考えられている.この仮説を検証するため,ホオノキの成長のシミュレーション モデルを作成して仮想実験をおこなった.
ホオノキの成長をそのままなぞる基本モデルに加えて,一次側枝の先端が短枝化せずに 伸長を続けるモデル(E1モデル),一次側枝も二次側枝も伸長を続けるモデル (E1+2モデル)を作成した.短枝化が起こらないモデルでは,当然ながら, 現実にあわせた基本モデルよりも葉面積,枝の総長,総重量ともに大きかった. 個体全体の枝の量と葉の量との関係を各モデルについて調べたところ,同じ量の枝が 支持する葉の量は短枝が分化しないモデルのほうが多かった.また,葉同志の相互被陰の 程度にはモデル間でほとんど差がなかった.これらの結果は,短枝化した枝を持つことで 効率のよい受光体制ができるという当初の仮説とは相反する.
枝が短枝化しないモデルでは,成長に必要な有機物を供給するために葉が高い生産性を 持つことが必要であった.つまり,枝が短枝化しないと個体全体としての受光効率 (バイオマス当たりの受光量)は高まるが,そのような形作りを支えるには十分な 生産性が必要となる.枝の短枝化は,全部の枝を伸ばし続けるほどの光合成生産が 行えない場合に対応した,節約型の成長パターンだと言えそうである.