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第36回種生物学シンポジウム企画

シンポジウム「枝の伸び方から木の生き方が見える」

updated on 27 September 2004

種生物学会の第36回シンポジウムの 企画のひとつとしてシンポジウム「枝の伸び方から木の生き方が見える」 が行われます. このページは,同企画のオルガナイザーの一人である竹中が私的に作成した シンポジウム宣伝ページです.

種生物学シンポそのものの正式な案内は,10月に種生物学会員に配布されるニュースレターに 掲載されるようです.

オルガナイザー 竹中明夫(国立環境研),八田洋章(筑波実験植物園)

プログラム(案)

セッション1 9:00 - 11:45 低木・亜高木の生き方 司会:八田

時間 講演者 演題
9:00 - 9:10 竹中明夫(国立環境研) イントロダクション:生態学から見る枝,枝から見える生態
9:10 - 10:00 相川真一(茨城大院・理) コゴメウツギの成長戦略 ―枝系の発達様式からみた萌芽更新の意義―
10:10 - 10:05 小休止
10:05 - 10:55 河村耕史 (京都大院・農) スノキ属低木における樹冠形成の規則性と光環境に対応した可塑性
10:55 - 11:45 鈴木新(大阪大院・理) ヒサカキとサカキにおける枝の次数と枝の生理・成長・繁殖との関係

昼休み 11:45 - 12:45

セッション2 12:45 - 15:50 ツル性木本と高木の生き方 司会:竹中

時間 講演者 演題
12:45 - 13:05 八田洋章(筑波実験植物園) ヤマボウシの1枝から読めること― 開花の周期性と同調性―
13:05 - 13:55 渡辺名月(鹿児島大院・理) ツル性ヤシ科植物ロタンの多様な形態と成長パタン
13:55 - 14:00 小休止
14:00 - 14:50 石原正恵(京都大院・農) カバノキ属における繁殖と枝の伸び方:種特異的なシュート生産パターンとシュート・デモグラフィー
14:50 - 15:40 浦口あや(北海道大院・地球環境) カエデ属高木における当年枝および個体レベルでの光に対する反応
15:40 - 15:50 総括

要旨

イントロダクション:生態学から見る枝,枝から見える生態

竹中明夫(国立環境研)

植物は空間に茎を伸ばし葉をつけて光を得ている.茎の伸ばし方は,すなわち エサの取り方であり,他の個体との闘い方でもある. 茎の役割は葉の足場とな ることだけではない.花や果実をつけることも茎の重要な機能である.個体の どこにいつどれだけ花をつけるかは,植物の繁殖行動とも言えよう.

樹木の場合,過去に作った枝を観察することができる.温帯域では,どの部分が 何年前に作られたかまで読み取れることが多い.過去の成長の履歴が分かると いうことは, 研究をすすめるうえでたいへんなメリットである.動物の過去の 行動のようすを知ることのむずかしさを想像すれば,そのことは明らかであろう.

このシンポジウムでは,枝の作り方,伸び方,その上の葉や繁殖器官の つけかたから出発して木の生き方を考えるという研究を7名のかたに 紹介していただく.いくつもの研究をあわせてみることで,それぞれの 木の生き方の個性も見えてくるであろうし,同時に共通するパターンも また見えてくるだろう.形の観察といういわば静的な出発点から, 木々のダイナミックな生き方にどこまで迫れるかが楽しみである.

コゴメウツギの成長戦略 ―枝系の発達様式からみた萌芽更新の意義―

相川 真一 (茨城大院・理・生態)

樹木は一般にシュートというモジュールを積み重ねることによって、その地上部を成長させていく。 そのため、多くの樹木は成長に伴い樹高やバイオマスを大きく増加させていくが、 森林下層に生育する低木種はしばしば異なる成長様式を持つ。それらの 低木種は個体に複数の幹を持ち、その萌芽幹の頻繁な発生と枯死によって地上部を 入れ替えながら「小ささ」を維持したままで成長する。この、いったん枝系を組みあげた 幹を捨てて地上部を組み建て直す「3歩進んで2歩下がる」的な成長様式は、森林性低木種の 生活史の中でどのような意味を持っているのか。比較的短い寿命の幹を持つ株型小低木 コゴメウツギを材料に、シュート単位、幹単位、株(個体)単位での物質生産構造とその動態を 解析することによって、この問題について検討する。

スノキ属低木における樹冠形成の規則性と光環境に対応した可塑性

河村耕史(京大院・農)

樹冠の構造は、個体の発育段階や生育環境に応じて変化する。本研究は、近縁で同所的に生育する低木種ウスノキとシャシャンボを材料に、発育段階(年齢・高さ)と光環境に応じた樹冠構造の種内変異を、樹冠の形状や枝分かれ構造の末端に位置する当年枝群の伸長・分枝の動態から記述し解析した結果について発表する。発育段階に応じた樹冠構造の変化は、内的に定められた樹冠形成の規則性を、光環境に応じた樹冠構造の変化は、光環境に対応した樹冠形成の可塑性を示すものと考えられる。解析の結果、ウスノキの樹冠形成は、内的に定められた発達の規則性が高く、光環境に対応した可塑性が低いこと、逆に、シャシャンボの樹冠形成は、内的に定められた発達の規則性が低く、光環境に対応した可塑性が高いことが示唆された。このような種間の樹冠形成様式の違いは、複幹で小型な低木であるウスノキと、単幹の傾向が強く大型な低木であるシャシャンボの成長戦略の違いとして解釈できる。

ヒサカキとサカキにおける枝の次数と枝の生理・成長・繁殖との関係

鈴木 アントニオ 新 (大阪大院・理・学振PD)

枝は,芽,葉,枝軸から構成され,基本構造はどれも類似しているが,その生き方は同一個体の樹冠内であっても多様である。枝の多様性を生じさせる要因として,従来はもっぱら光環境のばらつきが注目されて来た。しかし,枝の多様性には,枝の次数(主軸からの分枝回数を表す指標の一つ)も大きな影響を与える。たとえば,「陸の王者」としておなじみのヒサカキを用いたわたしの研究によって,枝の成長・繁殖パタンは,枝の光環境が同じでも次数が違えば大きく異なる事が明らかになった。枝の生理的特性の多様性を生じさせる要因としても,やはり,光環境のばらつきがもっぱら注目されてきた。しかし,枝の次数も重要であるはずである。そこで,今回の発表では,「陸の紳士」として知られるサカキを用いてわたしが行っている生理生態学的研究を紹介したい。主に,枝の次数と生理的特性(特に水分生理)との関係を述べ,その生態学的意義を検討する予定である。

ヤマボウシの1枝から読めること― 開花の周期性と同調性―

八田洋章(筑波実験植物園)

樹木の開花に周期性があることは漠然と認められている.しかしこれを定量的に解析するためには同一個体における長期間の連続観察が必要であり,現在までそのような詳しい調査はあまりなされていない. 

ところで、多くの樹木は年度毎の成長の経過を幹や枝にしるしている。例えばヤマボウシは伸長成長が規則的で,年度毎の解析を行うには好適である.ことに短枝による年次成長を重ねてきたヤマボウシの成熟枝ではかなり正確に開花年度を特定でき,それに伴う葉数やシュート数の変動を追跡できる.本報では,ヤマボウシの「枝に残された成長の印」をたどることによって25年間にわたる成長経過を解析し,開花周期の存在を定量的に明らかにすることを試みた.開花周期の解析のために直接的に関連する諸事象として 1)樹齢増加に伴う花序数,シュート数,枯死シュート数,葉数の変化; 2)開花周期性と個体間での同調性; 3)開花周期性と樹齢との関連の3点に注目した

ツル性ヤシ科植物ロタンの多様な形態と成長パタン

渡辺 名月 (鹿児島大院・理工)

ツル性ヤシ科植物であるロタン(ラタン)は、旧世界の熱帯と亜熱帯に約600種存在し、熱帯雨林を特徴付ける要素である。肥大成長も分枝もしないロタンは、節間の長さと太さを変えることで、林床にとどまるロゼット型から林冠に到達するツル型まで、多様な生活型を生み出している。ロタンの基本構造を、節間・葉鞘・葉柄・葉軸・葉身・登攀装置に分け、成長に伴う各部分の形態と乾重量の変化を、よじ登らない非ツルタイプ(2種)とよじ登るツルタイプ(4種)の間で比較した。どちらのタイプも成長初期段階では、節間が短くて太く、葉柄が長いロゼット型であった。その後、非ツルタイプでは各部分の形態と相対資源配分率がほぼ一定であったのに対し、ツルタイプでは節間が細く長くなると同時に葉柄が短くなり、登攀装置が出現した。また、よじ登るタイプの1種は、成長初期段階に葉身を欠く珍しい成長パタンを見せた。このように、それぞれの種が異なる成長戦略を持つことで、ロタンは森林内の垂直的空間を幅広く利用していることが分かった。

カバノキ属における繁殖と枝の伸び方:種特異的なシュート生産パターンとシュート・デモグラフィー

石原正恵(京大・農)

樹木は、成長だけでなく、繁殖のためにも当年生枝(シュート)を伸ばす。従来、限られた資源をどのように繁殖と栄養成長に分配するかという視点から、繁殖がシュート伸長に与える影響が調べられてきた。しかし、繁殖器官が特定のシュートからのみ生産される場合があり、シュート伸長と繁殖は相互に影響しあい、その関係には生態学的・進化的な意義があると考えられる。

そこで、カバノキ属の高木種5種を用いて、繁殖シュートと栄養成長シュートの生産パターンを比較した。その結果、繁殖シュートがどのようなシュートから生産されるかと、繁殖シュートがその後どのようなシュートを生産するかの二点で、種間差が見られ、種特異的なシュート生産パターンが明らかとなった。また、種特異的なシュート生産パターンが、繁殖量の年次変動(豊凶現象)のもとで、シュート・デモグラフィーにどのようにスケール・アップされるかも紹介する。

カエデ属高木における当年枝および個体レベルでの光に対する反応

浦口あや(北大・地球環境)

当年枝は,伸長成長の基本単位であると同時に,落葉樹の場合,葉を配置する唯一の場である.はじめに,オオモミジ・イタヤカエデ・サトウカエデ・ベニカエデを対象として,生育光環境による当年枝の伸長成長の種内変化と,葉配置方法の種間の違いを調べた.カエデ属で重要な形質とされる分枝型は,オオモミジが仮軸型,他3種は単軸型である.また,前2種は日本に,後2種は北米に生育する種である.得られた傾向は,オオモミジと他3種で異なる特徴を示した.次に,オオモミジとイタヤカエデを対象として,個体の直径成長と繁殖活動の光に対する反応を調べたところ,両種・両性質で光に対する反応が検出された.しかし,異なる光条件下での生涯繁殖量を推定し,反応の大きさを評価した結果,生涯繁殖量に影響を与えるほど大きな反応は,イタヤカエデの直径成長のみであった.当年枝でみられた特徴と個体レベルでの反応の関係を議論する.


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