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連載 植物の不思議な当たり前 第3回

葉はなぜ薄くて平べったいのか

この文章は, 公益社団法人日本アロマ環境協会(AEAJ)の機関誌(AEAJ)の原稿として 2012年に執筆したものです。印刷物にこのまま掲載されるとは限りません。

updated on 2012-11-15

1960年代にサイモンとガーファンクルが歌って有名になったイギリスの古い民謡「スカボロー・フェア」には、繰り返し「パセリ、セージ、ローズマリーにタイム」というフレーズが出てきます。タイムは、ローズマリーやセージと並んでよく知られたハーブです。ハーブと呼ばれる植物は葉があまり大きくないものが多いのですが、とくにタイムの葉は小ぶりで、長さも幅も数ミリ程度のものがほとんどです(写真1)。いっぽう、とても大きな葉をつける植物もあります。日本の植物でも、クワズイモの葉(写真2)や秋田蕗の葉は傘のかわりになりそうですし、バナナの葉など、長さが2メートル以上にもなります。数ミリ四方のタイムの葉と比べると面積は10万倍以上です。

写真1  タイムの長さ数ミリほどの小さな葉 写真2  クワズイモの大きな葉

種類によってこんなに葉の大きさに違いがあるのはどうしてかという疑問が湧いてきますが、今回は、大きさとは逆に、ほとんど変化が見られない葉の厚さに注目します。薄い葉では1ミリの数分の1,厚いものでも1ミリ以上のものはなかなかありません。面積の10万倍の差と比べると、ほぼ一定と言ってよいぐらいです。植物も動物も、生き物の体は細胞という小さい構造が集まってできています。葉をするどい刃物で切って、その切り口を顕微鏡で観察すると、厚みの方向には、数個からせいぜい10個前後の細胞が積み重なっています。もしも100個の細胞が積み重なれば、10倍以上の厚さの葉になりますが、そのような葉はまず見られません。大きさや形はさまざまあれど、薄くて平べったいのがほとんどの葉に共通する特徴です。何億年も前から地上で暮らしているシダ植物でも、昔から今まで変わらず平らな葉を作ってきました。時代を越えて、ほとんどの植物の葉が薄くて平べったいのには、何か理由がありそうです。

この不思議を、葉の役割という面から考えています。葉の一番の役割は、太陽からの光を受けて光合成をすることです。光をエネルギー源、空気中の二酸化炭素と根から吸った水を材料に、デンプンなどの有機物を作り上げるのが光合成です。その有機物を使って、植物の根も茎も葉も、あるいは花や実などが作られます。水と空気と光で体を作ってしまうことは、動物には絶対にまねができない芸当です。しかたがないので動物は植物を食べたり、植物を食べて生きている動物を食べたりして生きています。植物は地球上の生態系を支える土台となっていますが、それは葉の働きのおかげだと言えそうです。

そのような重要な働きをする葉を作るのには、植物は手持ちの有機物を使います。種子や球根、地下茎などにためてあった有機物であったり、すでに広げている葉が光合成を行なって作った有機物であったりしますが、いずれも好きなだけ使えるというものではありません。量に限りがあります。限られた材料から光を受ける面を作るには、材料を丸めておくよりも、薄く広げたほうが効率がよいことはすぐ分かります。太陽光パネルも薄く広く作られていますね。光を受ける葉でもパネルの材料でも、厚く重ねると下のほうまでは光が届きません。材料を薄く広げて大きな葉にしたり、葉の枚数を増やすなどしたほうが、効率よく光を受けることができます。不必要に厚い葉を作ると、その分、面積は小さくなってしまいます。すなわち、受け取る光の量が減り、光合成で作られる有機物の量も減ってしまいます。そんな効率の悪い植物は、まわりの植物との競争のなかで生き残っていけません。

とはいえ、あまりに薄い葉では、ちょっとしたことですぐに破れてしまいますし、乾燥に耐えることも難しくなります。薄く広く作ったほうが光をたくさん受けられるけれど、薄いといっても限度がある。その兼ね合いで、多くの種類の植物が、同じぐらいの厚さの葉を作ることになったのでしょう。

なお、大きめの葉の場合、葉脈がしっかりしていて、葉が途中から折れたり垂れ下がったりしないようになっています。せっかく光を受けるために薄くて広い葉を作っても、ハンカチのはじを持ったときのように垂れ下がってしまっては光は受けられません。葉脈は水分などの通り道であるだけでなく、葉の面を支える働きも担っています。

ところで、薄くて平らなのが葉の特徴といっても例外もあります。多肉植物と呼ばれる、厚ぼったい葉だったり、葉が退化して代わりに多肉質の茎が光合成をしたり、という植物です。それらはどう考えたらよいでしょうか。

多肉植物が見られるのは、乾燥が厳しく、植物がまばらに生えているようなところです。たとえばアフリカの乾燥地帯にはユーフォルビアやアロエの仲間などの多肉植物が生育しています。その葉は肉厚で、水分を多く含んでいます。英語でストーン・プラントと呼ばれるツルナ科の植物は、とても葉とは思えない、石のような葉をつけます(写真3)。

写真3 アフリカの乾燥地に分布するツルナ科の植物。花の両側にある固まりがそれぞれ多肉質の葉。

乾燥がきびしいところでは、ちょっと油断すると植物はたちまち乾いて枯れてしまいます。そんな環境では、光を効率良く受けることよりも、限られた水を大事にすることのほうが、生き残るうえではるかに大切です。湿ったものを薄く広げると乾きやすいのは、洗濯物を考えてもすぐ分かります。薄くて平べったい葉では生きていけません。多肉植物は、まれに降る雨水を厚い葉にたくわえて乾燥に耐えます。また、乾燥地には、葉らしい葉を作らない植物も見られます。アメリカ大陸の乾燥地に分布するサボテンの葉は身を動物から守る棘になり、光合成は肉厚の茎にまかせています。

光合成をするのをやめてしまった植物も、薄くて広い葉はいりません。他の植物に寄生する植物や、菌類と共生して栄養を得ている植物の葉は、小さく退化するうえに、光合成をする葉緑体がないので緑色をしていません(写真4)。

写真4 寄生植物ヤセウツボ。緑の葉を持たず、いっしょに写っているクローバーに寄生している。

光よりもまずは水が大切な環境で暮らす植物や、光をエネルギー源にしていない植物で例外が見つかるということは、光を受けるために平べったい葉が重要だということを逆に証明しているとも言えるでしょう。


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