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この文章は, 公益社団法人日本アロマ環境協会(AEAJ)の機関誌(AEAJ)の原稿として 執筆したものです。印刷物にこのまま掲載されるとは限りません。
updated on 2013-01-25
秋が深まるとともに落葉樹の葉は色付き始めます。黄色くなる葉、赤くなる葉、木の種類やまわりの条件によって微妙に異なる色合いは美しいものです。色付く前の緑の葉にも黄色い色素は含まれているのですが、緑色のクロロフィルが分解すると、黄色が見えるようになります。写真1のイチョウの葉は、葉の縁の部分はすっかり黄色、柄に近いところはまだ少し緑色が残っています。この黄色に加えて、もともとは存在しなかった赤い色素が作られる樹種では紅葉となります(写真2)。
写真1 黄色く色付いたイチョウの葉 | 写真2 ハゼノキの紅葉 |
さらに冬が近づくと赤や黄色の葉は散り始めます。このころになると、葉は張りを失ってしわくちゃになったり、あざやかな色が消えて茶色くなったりしています。もはや枯葉です。
木枯らしという言葉があります。秋の終わりから冬のはじめごろに吹く強い北風のことで。落葉樹の枯葉を散らして裸にしてしまうというので木枯らしと呼びます。木枯らしが吹く日に限りませんが、やがて葉は枝を離れ、落ち葉となります(写真3)。このあと、春になって冬芽がほころび新緑が顔を出すときまで、冬枯れの木々にはじっと寒さに耐える日々が続きます。
写真3 コナラの落ち葉
ところで、植物の葉も茎も根も、炭水化物やタンパク質などの有機物(炭素を含んだ化合物)でできています。有機物の材料は、空気中の二酸化炭素と、根から吸った水、そして多少の窒素などです。けれども、二酸化炭素と水をビンに入れておいても有機物はできません。専用の工場とエネルギーが必要です。工場とは葉緑体のこと、そしてエネルギーは光です。一枚の落ち葉にも、その葉を作るときに使われた太陽のエネルギーが溜め込まれています。それがどれだけのエネルギーなのかは、燃やしてみれば分かります。落ち葉が燃えるときに出る熱は、まさに葉がたくわえていた太陽のエネルギーです。落ち葉焚きにサツマイモをつっこんで熱々の焼き芋にして食べるのは、夏の日の太陽のエネルギーを使って調理していることになります。もちろん、サツマイモそのものも太陽のエネルギーを使って作られたものですね。
薪や炭を燃やすときは、落葉樹の葉の落ち葉焚きとはちがって何年間にもわたってためこんだエネルギーを利用しています。そして、石油や石炭が蓄えているのはもっとずっと昔に注いだ太陽の光のエネルギーです。石油ストーブにあたるときには、太陽から1億5千万キロの距離を越えて地球に届き、生き物の体に蓄えられ、何百万年、何千万年ものあいだ地中で眠っていたエネルギーに暖めてもらっているのです。なんともスケールの大きな話です。
話を落ち葉に戻しましょう。夏の日、木から葉のついた枝を折り取って、水にささずに放っておくと、その枝は乾いて枯れてしまいます。そのとき葉も枯れて茶色くなりますが、晩秋の枯葉のように散ることはなく、そのまま枝についています。枯れただけでは葉は落ちません。落葉樹の葉は、冬本番の寒さがくる前から落ちる準備を始めています。葉の柄の付け根、枝についているところに、離層(りそう)と呼ばれる組織を作ります。いかにもそこから離れて落ちていきそうな名前で、その名の通り、葉が落ちる時の切れ目となる組織です。離層ができたころに風が吹くと、枯葉は枝から離れて舞い散ります。 枝から葉が落ちた跡は葉痕(ようこん)と呼びます。その表情は木の種類によってさまざまです。冬の枝にも近寄ってみると、おもしろい冬芽や葉痕を発見できるかもしれません(写真4)。
写真4 センダンの葉が落ちた痕。
日本のほとんどの落葉樹は寒い冬の前に葉を落としますが、これが世界の常識というわけではありません。四季ではなく雨季と乾季があるところ、あるいは夏の乾燥が厳しく、冬の冷え込みがほのほどのところでは、乾燥した時期を迎える前に葉を落とします。薄い葉を広げたままにして水分が蒸発してしまい、木全体が枯れてしまっては大変です。ある時期に一斉に葉を落とすという性質は、もともとは乾燥に耐えるための方策として生じたものだとも考えられています。その性質が、冬を乗り切るのにも有利に働き、植物は寒いところにも分布を広げることができたのだとされています。
一年のうちある時期はすべての葉を落としてしまう落葉樹に対して、いつ見ても緑の葉をつけているのが常緑樹です。なお、常緑樹の葉はいつまでも枯れないと誤解されることがありますが、そんなことはありません。もしも本当に枯れないならば、常緑樹の大木など、幹も太い枝も上から根元まで葉だらけで、大変な密集状態になるはずですが、実際にはそんなことにはなりません。種類や条件によって寿命に長短はありますが、数年ほどのうちに葉は落ちていきます。なかにはクスノキのように、新緑がひろがり始めるのを見届けるようにしてに1年前の葉が散って行く、葉が短命な種類もあります(写真5)。
写真5 クスノキの新葉と、赤く色付いた古い葉
日本列島を南から北へとむかっていくと、しだいに常緑広葉樹は少なくなり、葉を落として冬をしのぐ落葉広葉樹が多くなります。ただし針葉樹の葉はきびしい寒さに耐えることができるようで、たとえば山を登っていくとモミの仲間など常緑針葉樹の林が広がっていますし、さらに高木が生えていない高度まで登ったところではやはり常緑のハイマツが地面をおおっています。秋の山では、落葉広葉樹の紅葉と、常緑針葉樹の緑とが互いに引き立てあう景色を見ることができます。冬を耐えることさえできるなら、せっかく作った葉を長い期間使えたほうがお得です。一年のうち葉が働ける期間が短い高山のような環境なら、なおさら何年も使いたくなります。きびしい環境を生き抜く方法はひとつだけではないのですね。
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