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この文章は, 公益社団法人日本アロマ環境協会(AEAJ)の機関誌(AEAJ)の原稿として 執筆したものです。印刷物にこのまま掲載されるとは限りません。
updated on 2013-04-29
南国の小島には、ヤシの木がすっくと生えているイメージがあります(写真1)。ヤシは木の中では変わり者です。枝分かれせずに幹がどんどん伸びていきます。ヘゴのような木になるシダも同様に、ほとんどのものは枝分かれせずに成長します。これらの木は、枝を伸ばして広い空間に展開することができないかわりに、長さ1メートルから数メートルにもなる大きな葉をつけます。とはいえ、葉を大きくするのには限界があります。ですから、一本のヤシの木陰はあまり大きいものになりません。
写真1 枝分かれしないヤシの木 |
多くの木は枝分かしながら成長します。枝先の芽が伸びるだけではなく、脇芽から枝が伸びだせば枝分かれしたことになります。写真2はまさに芽吹きがはじまろうとしているブナの木を見上げて撮ったものです。幹から太い枝が分かれ、それがまた枝分かれを繰り返し、たくさんの細い小枝をつけています。それぞれの枝の芽が開くと一面が緑の葉で埋めつくされます。大きなブナの木はおそらく数十万枚もの葉を持っています。それらの葉は、空間に広がった枝についています。もしも何十万枚の葉が一本の枝についていたら、葉はみっしりと重なりあって、とても光を受けるどころではないでしょう。
写真2 芽吹き直前のブナの木 |
ところで、木が枝分かれするのは当たり前だと思っていますが、なぜ木はみな枝分かれするのでしょうか。光をたくさん受けるには、葉の総面積を大きくすることが必要です。そのためには、大きな葉を付けるか、葉の枚数を増やすかする必要があります。すでに書いたように大きな葉といっても限りがあり、せいぜいヤシの葉ぐらいまでです。となると、空間のなかにたくさんの葉を配置しないといけません。葉は空中に浮かんでいてはくれないので、枝で支えます。根から水や栄養を送るためのパイプとしても枝は必要です。お互いに重ならないように空間内に配置した葉を支えるには、どのような枝の構造があり得るか考えてみましょう。
図1〜3は、コンピュータで描いた架空の植物の構造です。緑の円盤は一枚の葉と思ってもよいし、葉がまとまってついている小枝と思ってもかまいません。茶色の棒は、この円盤をささえる枝です。まず、全部の円盤を一筆書きで繋ぐことを考えみます。たとえば渦巻き状に枝を伸ばせば図1のような木になります。成長するときは渦巻きの先を伸ばして全体の面積を広げながら円盤をつけていけばよいはずです。でも、本当にこんな形だったら、この一本の長い長い枝を支えるために、ものすごく太くする必要があるでしょう。これでは材料のコストがかかって大変です。渦巻き状に長く伸びて葉をつけるというとアサガオを思い出しますが、アサガオは、しっかりした棒や他の植物に巻き付くことで、細いつるで済ませています。
図1 渦巻き状に枝を伸ばす架空の木 |
ひとつひとつの円盤と根元とを直接結んで支えるという構造も考えられます(図2)。
図2 根元から放射状に枝を伸ばす架空の木 |
葉ではありませんが、セリの仲間の花序(花の集まり)に、こんな放射状の構造を見ることができます。写真3はハーブとして使われるディルの花序です。香りがよい葉を使うだけでなく、強い香りがする種はスパイスとなります。ディルを含むセリ科の植物の花は、放射状にたくさんの柄を伸ばした先に花をつけた構造をしています。
写真3 放射状に広がる枝の先に咲くディルの花。放射状に広かる柄の先に、数十個の花が、これも放射状に伸びる細い柄の先についている。 |
話がずれてしまいました。葉の配置に戻りましょう。セリ科の花のようなコンパクトなものならこんな放射構造でもよいのですが、このまま大きな木を作ろうとすると、長い枝をたくさんの本数作らなくてはなりません。長い枝ほど太くないと支えられないので、これまた材料のコストがかかります。大きな木になると何十万枚もの葉を持っていますが、根元から何十万本の太い枝が伸ばしたら、たいへんなことになりますね。
そこで、その枝を途中まで束ねてやったらどうなるか。それで出来上がるのが枝分かれ構造です(図3)。
図3 幹から枝を伸ばし、さらにそこから小枝を伸ばす架空の木 |
見た目がすっきりしました。材料も節約できます。直径1センチの棒を10本束ねたものは、10倍強くなるかというと、曲げる力にたいしては30倍以上も強くなりますし、100本束ねたら1000倍強くなります。それだけ強いのであれば、もっと細くしても大丈夫。というわけで、これで効率よく大きな樹冠を作ることができます。枝分かれ構造は、実に理にかなった形だったのです。
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