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連載 植物の不思議な当たり前 第11回

細く長くしなやかな寄生:つる植物の生き方

この文章は, 公益社団法人日本アロマ環境協会(AEAJ)の機関誌(AEAJ)の原稿として 執筆したものです。印刷物にこのまま掲載されるとは限りません。

updated on 2014-12-05

しばらく前に、肉食系、草食系という言葉がはやりました。積極的、攻撃的なのが肉食系、受け身でのんびりが草食系。とはいえ、他の動物を捕まえて食べる肉食動物、生えている植物を食べる草食動物、いずれもほかの生き物の体を食べて生きています。これに対して植物はどうかというと、光をエネルギー源に、空気中の二酸化炭素と根から吸った水、そして少しの窒素などを材料に体を作ります。草食系よりもおとなしく、一人で満ち足りている植物系という感じでしょうか。

そんな植物でも、なかには他の生き物から栄養を得ているものがいます。というと昆虫を捕まえてその栄養を吸い取る食虫植物が思い浮かびますが、ほかの植物に寄生して、栄養分を奪って暮らす植物もいます。寄生とは、他の生き物にとりついて、栄養などを奪い続けることです。とりつかれた生き物(専門用語では、宿主(しゅくしゅ)とかホストとか呼ばれます)にとっては、迷惑このうえもありません。栄養をすべてホストに頼っている寄生植物は、自分では光合成をしないので、緑色の葉を作りません。写真1はそんな植物の一例、ナンバンギセルです。この植物はススキなどの根に寄生して、栄養分を奪って暮らしています。

写真1 寄生植物ナンバンギセルの花。緑の葉は作らない。

こうした明らかな例のほかにも、一見すると気がつかないけれど、よく考えたら寄生としか言えない生き方をしている植物がいます。つる植物と呼ばれるものたちです。

植物は、まわりの植物より高いところに葉を広げれば、それだけ多く太陽の光を受けることができます。ふつうの植物は、そのためにしっかりとした茎を作ります。茎には、水や栄養分が流れるパイプの役割のほか、葉を空中に持ち上げて支える足場の役割があります。ところが、細長くてしなやかな茎を作るつる植物は自分では立ち上がれず、他の植物に頼って上に伸びます。足場を固めるために必要な資源をはぶいて長い茎を作り、その分、より高いところに伸び、横に広がり、たくさんの光を受けることができます。

いっぽう、よりかかられる植物は、余分な重さを支えるために茎を丈夫にしなくてはいけませんし、上に伸びたつる植物の葉に覆われてしまうと受ける光の量が減ってしまいます。つる植物はホストに頼って楽をしながら光を受けられますが、よりかかられた側は暗いし重いし、踏んだり蹴ったり。まさに寄生です。

つる植物がホストにとりつく方法にはいくつかあります。ひとつはアサガオに代表されるような茎が巻き付く方法です(写真2)。意外なところではスイートピーもこのタイプです。

写真2 アサガオの花と、支柱に巻き付くつる

ほかには、巻きひげなど、茎とは別にからみつく器官をもっているタイプがあります。キュウリやゴーヤはこれに当たります。写真3はヤブカラシの巻きひげです。

写真3 ヤブカラシの巻きひげ

巻き付くのではなくツタのように付着するものもあります。「蔦の絡まるチャペル」と言っても、ツタは絡みつくのではなく貼り付くのです。ツタは巻きひげの先の吸盤、アイビー(セイヨウキヅタ)は茎の途中から出る気根で貼り付きます(写真4)。

写真4 建物の外壁に気根で貼り付いているアイビー

このほか、茎などにトゲがあって、これでホストにひっかかってよじ登るつる植物もあります。家具や籠などに使われるラタンがこのタイプです。ラタンはつるになるヤシの仲間の総称で、たくさんの種類が熱帯の森で暮しています。その茎や葉のトゲで周囲の植物にひっかかり登って行きます(写真5)。つる植物を見かけたら、どうやってよじ登っているのか、ちょっと立ち止まって観察してみるとおもしろいかもしれません。

写真5 トゲだらけのラタンの茎

さまざまな方法を使って、楽をして上に伸びるつる植物についての一番のなぞは、なぜ地上がつる植物だらけにならないかということです。つる植物に囲まれた中でひとりでて立ち上がってみても、すぐに寄りかかられて損をするだけのような気がしますが、それでも多くの植物が自立しているのはなぜなのか。おそらくつる植物にはつる植物のデメリットがあるはずで、研究者はいろいろな仮説を考えていますが、決定的な答えは出ていません。

ところで、つる植物の茎は上からの重さに耐える必要はないですし、曲げる力には逆らわず、柔軟に従えばよいのですが、引っ張りには強くないと困ります。でないと、風が吹いてホストの植物が揺れるたり、動物の体にひっかかったりすると、すぐにちぎれてしまいます。たしかにつるを手にとってみると、しなやかでいて、引っ張っても簡単には切れません。そして、人間はそんなつるの性質を活かして、籐細工だのあけび細工などを作ってきました。

細長くてしなやかで、でも丈夫なつるが作れるのは、植物の体を作る材料の特性のおかげです。植物のひとつひとつの細胞を囲む壁を細胞壁と呼びますが、そのおもな成分はセルロースです。セルロースの分子が束になって作っている微小な繊維は、とくに引っ張りに耐える強さが優れていて、断面積あたりで鋼鉄の10倍にもなります。植物のからだがこんなスーパー素材で作られているからこそ、つる植物という生き方もできるのでしょう。


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