2002-01-04
updated on 2015-02-24
昔々、わたしが大学院の修士課程1年のとき、学会の地区大会に参加しました。 規模の小さい集まりです。口頭発表のほか、何件かのポスター発表がありました。 そのなかに、ちょっとだけど私の研究と関連がありそうなものがあったので、 おそるおそる近寄ってみました。 発表者はその近くにいましたが、ただ黙って立っているだけでした。 いっぽう、気が小さい私はとても自分から声をかけることはできません。
ポスター発表のメリットは、発表者と聞き手のあいだで密なコミュニケーションが 持てることです。でも、このときは発表者も聞き手もひたすら「……」 「……」で、まったくやりとりのないまま数分が経過し、 いたたまれなくなった私はその場を離れました。 この時から、ポスター発表は発表者も聞き手も気まずい思いをするものだという 警戒感を持ってしまいました。
でも、その後、聞き手としても話し手としてもポスター発表を体験する機会が 増えるにつれて、だんだんコミュニケーションを楽しめるようになってきました。 その過程で、こんなことに気をつけるとお互いに楽しめるようだと気がついたことが いくつかあります。 どれも当たり前のようなことですが、書きとめておくことにしました。 参考にしていただける部分があればうれしいです。
なお、ポスター発表のスタイルとしては、大きく分けて
という2通りがあるようですが、この文書では前者のスタイルを基本にして 書いてあります。
コミュニケーションは、聞き手(以下、 聞いていただくという気持ちを込めて、お客様と呼ぶ ことにします)をお迎えしないことには始まりません。 口頭発表では廊下に出て客を引き込むなんてことはできませんが、 ポスターでは発表者の努力次第です。 やりかたによっては100人以上に聞いてもらうこともできます。 いっぽう、なんの努力もしなければ、だれにも聞いてもらえないこともあり得ます。 伝えたいメッセージがあるからこそ発表するのですから、 お客様をひとりでも多くお迎えしよう、という心構えで努力します。
では、どのような努力をしたらよいでしょうか。一番簡単だけれど 一番大切なことは、とにかくポスターの前に立ち続けることです。 ポスター発表の時間になって自分のポスターの前に立っても、 しばらくはだれも近寄ってきてくれないかもしれません。 それでも寂しさをこらえて待ちつづけます。 発表者不在のポスターの前で、発表者の帰りをじっと待っていてくれる 聞き手なんていません。ポスターの前を離れてしまったら、 その時点で白旗を掲げてしまったことになります。
待望のお客様がポスターの前で立ち止まり、関心を持ってくれたようだったら、 「説明させていただけますか?」と声をかけましょう。 お客様が、そのポスターが自分が関心があるテーマについてものかどうかを 判断するのにかかる時間は、たいていの場合せいぜい10秒かそこらでしょう。 ポスターの前に10秒以上立ち止まっている人は、多少とも脈があるはずです。
ときには、話し手が声をかける前に自分から「説明してもらえますか?」と言って くれるありがたいお客様もいますが、それをあてにして黙って立っていてはいけません。 聞いていただきたいのは発表者、 聞き手は面白い話なら聞いてやってもいいよというのが基本的な姿勢だ ということを忘れてはいけません (「聞き手に届く学会発表のために」の 前提2:聞き手が神様 もご覧ください)。 押しつけがましくならない範囲で、 積極的に声をかけましょう。
学会初心者の場合、最初に声をかけるのに躊躇してしまいがちです。 でも、話を聞いていただくためにポスターを貼っているのですから、思い切って声をかけましょう。 だれにも話を聞いてもらえぬままに発表時間が終了してポスターをはがすのは むなしいものです。有意義な学会とするために、勇気を出します。
一人でも聞き手をつかまえて説明を始めると、通りがかった人がさらに立ち止まり、 正のフィードバックで聞き手が増えていきます。 ただし、人が集まりすぎると後ろの人はポスターが見えなくなるのである程度 以上は増えません。でも、これだけ繁盛しているポスターなんだからおもしろいに ちがいないと思って、またあとで来てくれる人もいるでしょう。 とにかく勇気を出して最初の一人をつかまえる。これが第一歩です。
ただ、お客様によっては、「まずはポスター見せてください、それから 質問あったら聞きますから」という人もいるかも知れません。 よく見たらあまり興味のある内容ではないことが分かって 立ち去る人もいるでしょう。 こういう場合はお客様の希望にしたがいます。 いいから聞けよ、と押しつけてはいけません。 聞いてもらえなかったからといって落ち込む必要は全然ありません。 たまたまポスターの内容とお客様の関心が一致しなかっただけのこと。 めげずに次のお客様をお迎えする心の準備をしましょう。
大きな学会になると、一度に数百枚のポスターが展示されます。 聞き手は一枚一枚のポスターの前に立ち止まるのではなく、 ぶらぶらと歩き回りながらおもしろそうなポスターを物色します。 そのようなお客様に立ち止まってもらうためには、まずは 研究内容が一目で分かるポスターであること、 簡潔で分かりやすい説明をしてくれそうだという印象を与えることが重要です。
タイトルがどこにあるのかわからないようなポスターだと、なんについての研究だか すぐには分かりません。内容を適切に表すタイトルを、大きな字ではっきりと書きましょう。 また、伝えたいメッセージの要点はなんなのか、結論が見やすいところにはっきり 書かれていれば、ポイントを押さえた説明をしてくれそうで、聞いてみようかという気にさせます。
いっぽう、一見して内容が詰め込みすぎの印象を与えるポスターは、 うっかり捕まったら延々と話を聞かされそうだ、という雰囲気を醸し出します。 また、ほとんど説明のない図が並んでいるポスターは、 発表する側のサービス精神が感じられず、説明を聞く気が減退します。
目立つように派手なポスターを作るというのも、お客様を捕まえるひとつの方法ではあります。 でも、いたずらに色使いが派手なポスターは見るのに疲れます。 見やすい、目が疲れないポスターを心がけましょう。 お客様に見ていただくポスターは、なんといっても見やすさが最優先です。 とくに、濃い色を背景に黒い字が書いてあるようなポスターはたいへん見にくいものです。 コントラスト(明暗の差)が小さくならないように注意しましょう、 これは色盲の方への配慮にもなります (>参考: 色盲の人にもわかるバリアフリープレゼンテーション法)。
ポスターは研究発表のための補助手段ですが、 口頭での説明なしでも要点はつかめるように作りましょう。 その理由はいろいろありますが、 たとえば
などがあげられます。 また、説明しなくとも分かるポスターを作る過程で話の論理が自分でも整理できる、 という利点もあります。データを図化したものを適当に並べるというような作り方では 意味の通ったポスターはできませんから。
研究の目的や位置づけなどのイントロダクション、 結果の要点はなにか、その結果はどうおもしろいのか/重要なのか、 などが簡潔な文章で書きこみましょう。 ポスター全体の要旨はとくに見やすく作り、見えやすいところに配置します。
ポスターの見やすさは、掲示する板のサイズ、隣のポスターとの距離、 向かい側のポスターとの距離などによりますが、床から30cmのところに 細かい字で書いたものはほぼ確実に見にくいでしょう。 ときに、説明者と聞き手が床にしゃがみこんで話をしているのを見かけることがありますが、 これはどちらにとっても大変ですし、定員一人のプレゼンになってしまいます。 一番見て欲しい情報を一番見にくいところに配置しないように工夫しましょう。 下端には、追加説明用の補足資料みたいなものを置くのもよいでしょう。
図には、その読み取り方(縦軸がなんで横軸がなんだとか、シンボルや色分けの意味とか) もきちんと書いておきます。また、その図に示された結果の要点も簡潔に書いておくと、 なお「見て分かるポスター」になるはずです。 また、ポスター上に配置された図や文章を見ていく順番をわかりやすく示すことも大切です。 流れにそって配置する、見出しに番号を振るなど工夫しましょう。
字の大きさはとても大切です。 小さすぎる字は、小さすぎる声と同様、お客様の定員制限をしてしまいます。 5、6人が半円状に囲んだ状態で、皆が読めるような大きさが必要です。 出来上がりサイズにして、小さくても28ポイント以上、 できれば 32ポイント程度の大きさがよいでしょう。 ひとつの目安として、全体を A4 に縮小印刷した時に十分読める大きさの字 であれば、ポスターとしても読みやすいものになります。
文章は大きな字で書かれていても、 図のなかの文字が小さくて読みにくいポスターも少なくありません。 せっかく載せた図も、縦軸や横軸がなんなのかわからなかったり、 凡例が読み取れなかったすれば意味不明です。作図するときから注意する、 あるいは図の上からさらに文字を重ねるなどして、離れて見ても分かる図にしましょう。
大きな字で書いてたら入りきらないとしたら、それは内容を詰め込みすぎ なせいかも知れません。 話のポイントを絞り、不要な部分を削ぎ落とすことを考えてみてください。
内容の絞り込みには、しっかり頭を使います。 説明に手間取りそうな部分は、ほんとに盛り込むことが必要なのか、 省略しても言いたいことは伝えられないかを考えます。 たくさん労力使ったところだから、という理由で削るのをためらってはいけません。 学会発表は、研究内容の魅力を伝える場です。流した汗の量を競わないこと。 魅力的な発表にするために必要な要素かどうかを最優先に考えましょう。
たとえ絵として見やすくても、意味を理解しにくい図であってはなんにもなりません。 口頭発表の心得でも書いたように、「図を説明する」ことに終始してしまうような 難解な図ではなく、「図を使って説明する」ための明快な図を作りましょう。
お客様が立ち止まってくれて、「説明しましょうか?」との問いかけに 「じゃ、お願いします」と応えてくれたら、いよいよ発表の本番です。 ポスター発表でのしゃべり方は、口頭発表よりも柔軟に、いろいろなやりかたが あってよいと思います。でも、聞き手に向かって語りかけるという基本は 口頭発表と同じ。 「聞き手に届く学会発表のために」もご覧ください。
また、 ポスター発表では聞き手からの質問への対応にかなり時間をつかうことになります。 質問への答えかたについては 「 聞き手に届く…」のなかの 質疑応答:めざすは簡にして明に書きました。
なお、聞き手が少数のポスター発表では、聞き手のバックグラウンドに応じて説明の仕方を変えることも 容易です。専門分野が重なるお客様には、手法や背景の説明は不要ですし、 ものすごく離れた分野の人なら、詳細はともかくこの点だけは押さえてください、といった説明が 適しているかもしれません。お客様の反応を見たり、「○○はご存知ですか?」と確認したりして、 効率的な説明を心がけましょう。
それぞれのやり方で説明すればよいといっても、 これは避けたほうがよい(でもうっかりやってしまいそうな)まずいやり方もあります。 そんな「まずい例」をいくつか挙げてみます。
聞き手がいつでも質問をはさんで柔軟にやりとりできるのがポスター発表の利点です。 5分程度で要点をおさえた話をして、 あとは聞き手からの問いかけに応じて詳細な説明を加えていくほうが、 コミュニケーションを深めるうえで有効です。
研究の背景は、これを理解しておいてもらわないと研究の内容や意義がまったく 伝わらないというようなポイントだけをしっかり説明します。 また、方法を説明するときは、何を測ったかに焦点を絞り、どうやって測ったかの 説明は最小限にとどめます(測定方法の工夫がウリの発表なら別ですが)。 そして、ほんとに伝えたい結果やまとめにところに力と時間を使いましょう。
ポスター発表は時間制限のない口頭発表であるかのように、 延々と15分にもわたって説明する人もみかけますが、こんなことをすると、
途中で「逃げたい」モードに入ってしまったお客様は、他のお客が立ち止まって 身代わりになってくれないかと思いながら気のない相槌を打つばかりで、もはや有意義な コミュニケーションは望むべくもありません。 また、お客様の回転率を落とすことにもなります。
学会初心者がやってしまいがちな「まずい例」です。 すぐ目の前に生身の人間がお客様として立っているのに、原稿に目を落としたまま 読みあげるのでは、コミュニケーションを拒絶しているようなものです。 お客様に語りかけるという態度で話をすれば、聞き手としても身を入れて 聞こうというものです。
原稿の棒読みではないにしても、目もうつろに暗記した原稿をズラズラと暗唱するだけ といいうのもあまりよくないですね。 発表者とお客様、人と人とのやりとりですから、あくまで「語りかける」ことです。
はやっている店では、お客の賑わいが効果的な宣伝となってさらにお客を呼びます。 あなたの話を熱心に聞いてくれているお客様の存在は、2人目、3人目のお客様を呼び込む ことでしょう。でも、話す声が小さすぎて1人目のお客様にしか聞こえなければ、 あとから来たお客様はやがて去って行ってしまうでしょう。 定員をわざわざ1人に制限してしまっているようなもので、 とてももったいないことです。 日ごろから声が小さいと言われている人は要注意です。
定員を1名にしないために、その場にいる人みなに語りかけるつもりで、 うしろで遠巻きにしているお客様にも視線と声を届けましょう。 その場に集まってくださったお客様はみんな大切にする気持ちを忘れずに。 前に立っている人が後ろの人の視線を妨げているようであれば、 「あ、そこで見えますか?」などと後ろの人に声をかけて 前の人にそれとなく配慮を求め、かがんだり横にどいたりしてもらう、 などという気配りまでできれば申し分ありません。
小さい声もまずいですが、声が大きすぎるのも、となりのポスターの 説明を聞いている人にとって迷惑になります。 口頭発表の場合にはとにかく大きな声で話すのがよいのですが、 ポスターの説明は小さすぎず、大きすぎず、ほどよい声量を心がけましょう。 自分の声の大きさは自分では意識しにくいものですが、 日ごろから声が大きいと言われている人は要注意です。
発表者はその場を「仕切る」資格があります。堂々と(あるいは控え目に) 仕切って、適当なところで議論を整理し、途中参加のお客様に 最初から説明させていただきましょう。
緊張しながらポスター発表をしているときに、同じ研究室の人などごく親しい人が来ると、 ついつい気がゆるんでカジュアルな会話モードになってしまうことがあります。 無理に他人行儀にする必要はないですが、潜在的なお客様が、 「あ、仲間うちの会話中か」と思って離れていってしまうようなことがあっては困ります。 カジュアルな会話は最小限にとどめましょう。
これと似た状況として、国際学会での発表時に日本人の聞き手を相手にする場合が あります。お互いの母語を使ったほうが話が楽ですから、 つい日本語でやりとりしてしまいがちですが、そうなると非日本語話者の聞き手を排除して しまいます。その会議の公式使用言語(多くの場合は英語)での説明を心がけましょう。
お客様のなかには学会初参加の学生もいれば、その分野では第一人者といわれる ような研究者もいます。発表者としては、どうせならエラい人にアピールしたいという 気持ちはどうしてもあるでしょう。でも、一生懸命話を聞いてくださっている 若いお客様をないがしろにして、顔も気持ちもエラい人のほうを向きっぱなし、 なんてのはいけません。 これは発表テクニック以前の誠意の問題です。 人間性への評価を落とすことのないよう気をつけましょう。
ポスター発表を有意義なものにするには、話し手の心がけだけでなく聞き手の 意識も大切です。
まず、おもしろそうだと思ったポスターの発表者には、自分から 積極的に声をかけましょう。発表者が積極的に売り込むのが本来だろうと思いますが、 気が小さくてなかなか声をかけられないでいる人もいるでしょう。 そんな時は、どんどん自分から説明を求めましょう。 発表者は自分の話を聞いて欲しくてポスターを貼っているのですから、 話を聞きたいと言って断られることはないはずです。
説明をしてもらったら、積極的に質問をしましょう。 最後まで待たずに説明の途中で質問をはさめるのもポスター発表の利点です。 質問をとっかかりにして議論が深まることも多々あるでしょう。 説明だけさせて、ただ「ありがとうございました」だけで帰ってしまわれると、 話し手はつまりません。 なにか一言でも質問するのが礼儀だと思って、どんどん口を出しましょう。 質問することのメリットや、質問のしかたについては、「 学会やセミナーで質疑応答を楽しむ 」もご参照ください。
発表のなかでおもしろいとかすぐれていると感じる点があったらはっきりと伝えると、 発表者にとっては非常に励みになります。 感想もどんどん言葉にして伝えましょう。
自分の専門分野と近いテーマの発表ならば自分が何に関心を持ってどんなことをやっているか、 ごく簡単に伝えると、さらに話が盛り上がることでしょう。同業者とのあらたな出会いは、 学会発表の醍醐味のひとつです。お互いにとってよい出会いとしましょう。
すでによく知っている背景や手法をていねいに説明されそうになったら、 ちょっと言葉をはさんで、それについては知っている、 ということをさりげなく伝えると無駄な時間を使わなくて済みます。 おたがいに相手の背景知識をたしかめながら効率のよいコミュニケーションを図れるのも、 ポスター発表の利点です。
聞き手としてこれはマナー違反だぞ、というべからず集をまとめてみます。 こうした失敗は、 聞き手も発表者とともに壇上に上がったパネルディスカッションの討論者だ という意識を持てば避けられるものばかりです。
発表者のべからず集で書いた 「×いつまでも特定の人と議論を続ける」の裏返しです。 他の聞き手への配慮もなく、発表者に10分も20分も自分との 1対1の対応を強いてはいけません。 また、発表内容とは直接関係のない自分の研究の話を長々とするのも、 他のお客様を無視したマナー違反です。 周囲への気配りを忘れないようにしながら、議論を楽しみましょう。
なお、居座ってしまったお客にたいして発表者ができる対処のしかたとしては、
などの手があります。
ほかの聞き手を疎外してはいけません。どんな小さな質問でも、 つねにその場の皆とやりとりを共有するのがエチケットです。
この弊害は話し手のべからず集に書いたとおりです。 国際学会で日本人同士が日本語でやりとりすることの弊害もすでに書きました。 発表のじゃまをしないように気をつけましょう。
たいていの学会では、会場ではつねに名札をつけて名前を明らかにしておくことになっていますが、 2日め、3日めとなると、めんどうになってか名札をつけない人も出てきます。 でも、興味のある研究をめぐって議論をするのに自分だけ名乗らず、匿名のまま立ち去るのは もったいなくもあるし、失礼でもあります。 私など名乗るほどのものではありませんという遠慮は無用、 もちろんオレのような有名人を知らないのかという奢りは問題外です。
発表者がその場にいるのに、 説明を聞くでもなく、質問をするでもなく、ポスターの写真だけ撮って立ち去る人を 時折見かけます。こうした態度では、聞き手ともお客様とも呼べません。 かなり失礼な印象です。 少しでも関心があるなら話をしましょう。 そのうえで、やはり写真を撮りたかったら許可を求めてから撮影しましょう。
充実したコミュニケーションができたポスター発表のあとでは、この文章の冒頭で 紹介したような「……」「……」のトラウマなど残るはずはありません。 発表者には心地よい疲労感と充実感が残るでしょう。
お客様に研究の内容を説明し、質問に応じたり、議論を交わしたりして 有意義な時間を過ごさせていただいたあと、お客様が去っていかれる時は、 感謝の気持ちを込めてお送りしましょう。 お客様はほかのポスターも見たいでしょうから、無理に引き止めては いけません。
これまで面識のなかったお客様で、今後も連絡をとりあいたいという ような場合には、名刺の交換をするのもよいでしょう。 発表内容と関連のある自著の別刷りがあったら用意しておいて、 お客様にお渡しするのもよい宣伝になります。 また、ポスターの縮刷版を作っておくのもよいでしょう。 押しつけやバラマキにならない範囲で、おおいに宣伝しましょう。
聞き手も、発表者に感謝しながらポスターをあとにしましょう。 また、発表者の名前はポスターを見れば分かるし、あとからプログラムを見て 確かめることができますが、聞き手の名前や所属をすぐに覚えてもらえるとは 限りません。今後も折りに触れてディスカッションをさせていただきたいなと 思ったら、名刺を渡すなどしてお願いしましょう。
発表技術の向上のためには、人の発表をおおいに参考にしましょう。 いいなと思ったポスターや説明のしかたは、どこがよいと思ったのかを分析し、 まねできるところはまねしてみましょう。 また、このポスターは見にくいなと思ったり、説明が分かりにくいとか、 やりとりがしにくいとか、とにかく聞き手に負担がかかってるなとか思ったら、 それはなぜかを分析し、どうすればもっとよくなるか考えてみます。 そうすれば、自分も同じ失敗をしないですみます。
皆が切磋琢磨して、学会全体の発表のレベルがあがっていけば、 ポスター発表の会場は、自分も効果的に宣伝し、人から情報や刺激をもらい、 人の輪も広がる、とても楽しいところになるでしょう。
ポスター会場内でのボードの配置は、頭を悩ますところです。 とくに、限られた面積にボードを配置するとなると、ずいぶん苦労します。 そのとき、ぜひ考慮していただきたいことを2つあげました。
3枚以上のポスターが並ぶと、両側を他のポスターにはさまれた人はとても窮屈になります。 とくに、両隣のポスターが繁盛してると、まったく前をふさがれた状態になることもあります。 会場の面積の制約からむずかしい場合もあるでしょうが、3枚や5枚の連結ボードの中央1枚は 空白にしておくなどの工夫をしていただけると発表者にやさしい会場となります。
向かい合うボード間の距離が狭すぎると、それぞれの前に聞き手が並んだとき、 あいだを人が通り抜けられなくなります。向かい合うボード間が4メートルぐらい とれれば余裕のある会場となります。
また、長い壁が並行して並ぶようなデザインだと、 繁盛しているポスターのところで人の流れがさまたげられ、 壁のあいだの長い通路全体が渋滞状態になります。 向いあうボードの間隔がじゅうぶんにとれないときは特にそうです。 10メートルも連続した壁を作らずに、適当なところにすき間をつくって 壁と垂直方向の移動もしやすくすると移動しやすい会場となるでしょう。
学会の参加人数とポスター会場の面積から考えてかなりの混雑が予想される場合は、 にっちもさっちも行かないといった事態にならないよう配慮が必要です。 とくに、入り口近くのポスターが繁盛すると、人の出入りができなくなります。 入り口のすぐそばにはボードを置かないほうがようでしょう。
本文書に改善意見をいただいた村岡裕由さん(岐阜大学)、 小川みふゆさん(森林総研)、酒井聡樹さん(東北大学)、 ポスターの掲示方式について情報をいただいた 田中美希子さん(京都大学霊長類研究所)に感謝します。