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資源獲得戦略としての樹木の形作り − 「枝葉末節」から本質へ

各講演のひとこと宣伝

updated on 15 January 2002


このシンポジウムの目的は,樹木の地上部の形ができていくプロセスを,光資源の 獲得戦略としてとらえた研究を持ち寄って,樹木の生き方の統合的な理解への 道を考えることです. シンポジウムの副題中の「枝葉末節」には,なんら否定的な意味合いは こめられていません. どんな大木も,既存の構造の末端にあらたに枝葉をつぎ足すことで できたものです.枝葉末節の消長は,形作りの重要な素過程です.

枝葉末節が大切だといっても,その挙動を調べればただちに木の形作りがすっきり 分かってしまうかというとそうは行きません.木の成長にはさまざまな要因が複雑に 関与しています.なかでもよく分からないのは,枝の太らせ方をはじめとする, 個体の中での光合成産物の配分パターンです. 最初の発表 「個体の中の個体群:シュート動態と幹の成長」 の講演者である鈴木牧さんは, ミズナラの1万本近い当年生シュートの測定データをもとに, 枝への新しいシュートの追加と,その枝の太り方との関係を解析しています. 個々の枝先の振る舞いと個体全体の成長との対応パターンを抽出した労作です.

ところで,枝が次第に太るのはその先の枝葉を支えるためです.支えると一言 で言っても,その内容としては,枝葉に働く重力や風の力に対抗するための 力学的支持の面もあるし,根で吸収した水分や栄養分を供給する, いわば生理的な支持の面もあります.これまでの研究の多くは,これらのうちの どちらか一方に注目したものでした. 2番目の発表 「茎の性質は植物の生長速度を変えるのか?」 (種子田春彦さん,舘野正樹さん)では,力学的な支持機能と水分通導機能と どちらが枝の太り方を決めるうえで重要なのか,という問題に正面から 取り組んでいます.

木を外から見ていてもよく分からないことのひとつは,個体の中での物質の 移動です.葉で作られた光合成産物がどのように流れて,どこに何に使われる のかを見定めるのは容易ではありません. 「ヤマハンノキ当年枝の繁殖における資源的独立性と当年枝動態からみた豊凶現象」 の講演者である長谷川成明さんは,炭素の安定同位体を使った実験により, ヤマハンノキの花や果実の発生・成熟に必要な物質がどこから運ばれてくるのかを 調べています.さらに,その結果に基づいて,個体レベルの結実の豊凶現象の 意味について論じています.

枝や幹の断面積と,そこから先についている葉の量とのあいだには 比例関係がしばしば観察されます. 「木は一定量の葉とこれを支える一定断面積のパイプという単位が束に なったものと捉えられる」というモデル,すなわちパイプモデルは, この比例関係にもとづくものです. 「「樹形のパイプモデル」で「樹形」を理解してもいいのだろうか? − スギとヒノキの事例 」 (城田徹央さん,作田耕太郎さん)では,パイプモデルから導かれる 「枝分かれの前後で木質部の断面積の総和が変化しない」 という予想の検証をしています. この予想が成り立つ場合と成り立たない場合を比較しながら, パイプモデルの背景にあるものを探っています.

以下に続く2つの発表では,木の形作りと個体間の相互作用との関係を とりあげています.

木の地上部の形作りが光の獲得機能と結びついているのであれば,隣り合う 木々のあいだの光をめぐる競争が木の形作りと無関係なはずはありません. 「個体間の相互作用と樹冠のダイナミクス」 の講演者である梅木清さんは, 一次枝(幹から直接出ている枝)を基本構造ユニットとした樹木のモデルを 使って個体間の相互作用を再現しようとしています. 一次枝の構造と発生・成長・枯死の測定データや,光の空間分布のデータに基づく モデルで,シラカンバ個体間の光資源をめぐる競争と,樹冠構造のダイナミックな 変化を再現しています.

木の三次元の枝分かれ構造は,眼で見るのは簡単ですが,定量化しようと するととたんに難しくなります. 「木を見て森も見る − 幹・枝構造の成因と群落動態へのかかわり の講演者である隅田明洋さんは, 可視レーザ測距儀付きセオドライトというハイテク機器を使って, 調査区のすべての高木の幹・枝の骨格構造を3次元的にとらえています. 一時間断面の構造のデータから,その背景にある個体間の相互作用の プロセスを考察しています.個体の開葉フェノロジーも考慮しながら, 枝スケールの調査結果が群落スケールの構造と動態の理解へと 結びつけられていきます.

最後に,シンポジウム企画者のひとりである竹中明夫は, 「木の形づくりとその機能的意味 − 研究の流れと今後の展望」 と題してこれまでの研究の流れを概観しつつ,本シンポジウムでの 講演の意義を考えます.さらに,今後の研究の方向についても考えます. その中では,モデルを使った統合が重要な道具として位置づけられる でしょう.

ところで,木の構造と機能のモデルをテーマとした国際ワークショップが 2001年9月にカナダで行われました ( ワークショップの案内ページへ ). 本シンポジウムとも密接に関連する内容のようです. このワークショップに参加された菊沢喜八郎さんに,その内容の 簡単なレポ−トをお願いしました.